みらい社会創造ラボ
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【コラム】 私立高校が"もらいすぎ"の100万円――そのお金は、どこへ消えるのか

高校授業料無償化における公立と私立の補助額差は、3年間で約100万円。この差は、公立高校の定員割れ、高校スポーツの実業団化、そして工業・農業高校からの人材流出という、三つの副作用を同時に生んでいる。


公立と私立の補助額は、同額にすべきだ。そこで浮く財源は、高校ではなく大学の費用にこそ振り向けるべきである。


差額は3年で約100万円

現行の就学支援金は、公立高校が年11万8,800円。私立高校は所得に応じて最大45万7,200円まで支給される。差額は年33万8,400円、3年間で約101万円になる。私立に通う生徒は、公立に通う生徒より約100万円多く、税金で授業料を補填されている計算だ。


全国の私立高校生は約100万人。1学年(約33万人)が3年間で受け取る上乗せ差額の総額は、約3,300億円にのぼる。


そもそも私立高校は「贅沢品」だった

日本の高校進学率は、無償化以前から99%前後で推移してきた。高校教育は、公費投入がなくても、ほぼすべての家庭がすでに実現していたということだ。


その中で私立高校は、贅沢品として選ばれてきた。公立より高い授業料を払ってでも、手厚い学習環境で向学心の高い生徒がレベルの高い授業を受けられる場であり、同時に、公立の受け皿からこぼれた学力の弱い生徒を拾い上げるセーフティネットでもあった。私立の高い授業料は、家庭が自ら選び、家計の中でやりくりしてきた対価であり、公費で穴埋めするべき不利益ではなかった。


現行制度は、この前提を崩している。すでに家計で成立していた選択に、公立以上の補助を上乗せする形になっている。


大阪では、すでに公立離れが起きている

全国に先駆けて所得制限なしの完全無償化を実施した大阪では、この差の影響がすでに数字に表れている。2026年3月の府立高校入試では、平均倍率が1.05倍にとどまる中、府立高校の約4割が定員割れとなった。2024年度の入試でも、全日制145校のうち70校が定員割れとなり、旧制中学を前身とする伝統校も定員を満たせなかった。


教育アドバイザーの清水章弘氏は、大阪府内で私立専願者の割合が年々増加する一方、公立高校への進学を希望する中学3年生の割合が年々減少していると指摘している。大阪府教育庁の関係者も、私立の授業料が実質無料になれば府立高校の定員割れが今後さらに加速する可能性があると認めており、公立側からは「公立いじめ」との声さえ上がっている。


経済学者の7割は、私立への上乗せに反対している

この差額の使い道をめぐっては、専門家の間でも慎重な見方が強い。日本経済新聞と日本経済研究センターの調査では、経済学者の7割が私立高校向け無償化の拡大に反対した。一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は、教職員の処遇改善や教育のデジタル化に予算を充てるのを優先すべきだと述べ、同大学の森口千晶教授(比較経済史)も、幼児教育や義務教育への支援の方が優先度が高いと指摘している。


高校スポーツを、実業団化させている

上乗せ支援は、金額の歪みだけでなく、高校スポーツのあり方そのものにも影響している。全国から有力選手を集める私立の強豪校では、ベンチ入りメンバーの地元出身者が半数以下という例は珍しくない。藤枝順心(サッカー)、智弁和歌山(野球)はその代表例だ。


「素材の良い選手をスカウト合戦みたいになってね。そういう選手が集まった時は強いし、集まらなければ、高校野球が衰退していくんじゃないか」
――明徳義塾・馬淵監督

高校野球では2007年、有力選手の獲得競争が「特待生問題」として表面化し、377校・7,920人の野球部員が特待生だったことが判明した。以降、中学生への勧誘はルール化されたが、現在も選手を有名高校に斡旋する「ブローカー」が活動しており、選手1人の入部あたり35万〜50万円の報酬を得ている例も指摘されている。地域代表としての高校スポーツが、実質的に全国から選手を集める実業団的な体制へと変わりつつある背景に、この上乗せ支援が資金的な後押しとして働いている。


工業高校・農業高校から、静かに人材が流出する

この空洞化は、すでに数字に表れている。日本経済新聞の調査では、公立工業高校の志願倍率が「1倍割れ」となった都道府県は、全国39都道府県にのぼる。経済産業省の就業構造推計では、2040年に工業科出身の高卒人材は需要に対して91万人不足する一方、普通科出身の高卒人材は32万人余ると見込まれている。工業高校離れと私立普通科への流入が、無償化を機に加速しているとの見方もある。


農業の現場はさらに深刻だ。日本の農業を支える基幹的農業従事者は、2025年時点で約103万人、平均年齢67.7歳、65歳以上が7割を占める。25年前の240万人から、すでに6割近く減った。49歳以下の新規就農者は、この10年で3割減っている。


工業高校卒・農業高校卒の即戦力は、大卒エンジニアには代替できない、実技と経験に基づく技能の担い手だ。この世代がこのペースで先細れば、10年後には、ものづくりの現場にも農業の現場にも、技能を引き継ぐ担い手そのものがいなくなる。授業料補助の設計が、公立の専門高校から私立普通科への転学を後押しし、この流れにさらに拍車をかけているとすれば、看過できない。


結論:差額は解消し、大学費用へ回す

この差額が生んでいる副作用内容
公立離れ大阪府立高校の約4割が定員割れ
高校スポーツの実業団化強豪校のベンチ入り、地元出身者が半数以下
専門高校からの人材流出公立工業高校の志願倍率、39都道府県で1倍割れ/基幹的農業従事者は平均67.7歳

公立と私立の補助額は、同額にするべきである。教育の質の優劣は、この議論の前提にはならない。もともと私立は、家計が選び、家計の中で成立していた選択だったからだ。


差額を解消して生まれる財源、約3,300億円は、高校段階の補助金競争に費やすのではなく、大学・大学院・専門学校の費用に回す。もともと家計で成立していた高校教育の段階から、負担の重い大学教育の段階へ、財源の効果を付け替える。これが、私たちの少子化提言における現実的な財源の一つになる。

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