みらい社会創造ラボ
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もしも健康ネットと健康定期便が実現したら

ある春の日。58歳の会社員、田中さんの自宅に一通の封書が届いた。差出人は「健康未来機構」。年に一度届く健康定期便だった。

田中さんは特に大きな病気をしたことがない。健康診断も毎年受けている。だから最初の頃は、届いてもほとんど見ていなかった。

しかし今年は少し違った。最近、階段を上ると息が切れる。疲れが抜けにくい。なんとなく体調が以前と違う気がしていた。

封を開けると、そこには分かりやすい言葉で現在の健康状態がまとめられていた。

「5年前と比較して体重が7kg増加しています」「血圧は緩やかに上昇しています」「運動習慣の低下が見られます」「糖尿病リスクは平均よりやや高い状態です」

病気だとは書かれていない。診断でもない。あくまで事実だけが並んでいる。そして最後に、こう添えられていた。

『今すぐ治療が必要な状態ではありません。ただし、今後5年の生活習慣によって健康状態が大きく変化する可能性があります。』

少し気になった田中さんは、スマートフォンを取り出し健康ネットへログインした。

健康ネットでは、1年前、3年前、5年前、10年前までの健康診断結果や通院履歴が時系列で確認できる。10年分を並べると、体重も血圧も血糖値も確かな傾向を示していた。

「そうか・・・」

初めて、自分の体の変化を実感した。数字そのものが教えてくれたのである。

健康ネットには参考情報も表示される。しかし命令も診断もない。不安を煽る言葉もない。

『同年代の方では、このような変化の後に高血圧や糖尿病へ進行する例があります』『ウォーキング習慣のある方では改善傾向が見られます』

選ぶのは本人だ。田中さんは翌週から昼休みの散歩を始めた。

数か月後。田中さんは久しぶりに健康ネットを開いた。

実は特別なことは何もしていない。毎朝、洗面所で体重計に乗るだけだった。体重計はスマートフォンと連携し、計測データは自動的に健康ネットへ記録される。

血圧計やスマートウォッチも同じように連携できる。本人が希望すれば、健康診断結果や通院記録とあわせて時系列で管理することも可能だ。面倒な入力はほとんどない。

グラフを見る。体重は緩やかに下がっていた。毎日では分からない変化だったが、3か月単位で見ると確かに改善している。血圧も少し下がっていた。

わずかな変化だった。しかし、それが嬉しかった。

その頃、妻も健康ネットを利用していた。健康定期便の中に「前回の胃カメラ検査から6年が経過しています」という表示を見つけた。

忙しさの中で忘れていた検査だった。症状はなかったが受診してみると、小さな早期病変が見つかった。

医師は言った。「あと数年遅かったら、大きな治療になっていたかもしれませんね」

健康ネットは病気を治したわけではない。健康定期便が病気を発見したわけでもない。ただ、忘れていたことを思い出させ、自分の体を振り返るきっかけを与えてくれただけだった。

やがてこの仕組みは全国へ広がった。若い世代は健康診断を受け忘れなくなり、働き盛りの世代は生活習慣を見直し、高齢者は通院履歴や服薬状況を確認できるようになった。

その小さな積み重ねが、日本全体の健康を少しずつ変えていく。

だから必要なのは、病気を治す仕組みだけではない。病気に気づく仕組み。病気を減らす仕組み。自分の健康を知る仕組みである。

健康ネットと健康定期便は、そのための新しい健康インフラである。

もしも健康ネットと健康定期便が実現したら。それは単なるシステム導入ではない。日本が「治療中心の社会」から「健康を育てる社会」へ変わる第一歩になるのかもしれない。


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