健康情報がいつも身近にある社会 ― 健康寿命を伸ばす世代編
朝6時。
78歳の佐々木さんは、毎朝体重計へ乗る。
しかしスマートフォンは持っていない。
健康アプリも使わない。
それでも困ることはなかった。
週に一度、散歩の途中で近所のドラッグストアへ立ち寄るからだ。
ドラッグストアでは血圧を測る。
そして最近どれくらい歩いたかを店員へ伝える。
マイナカードを渡す。
店員が健康ネットへデータを送信する。
料金は100円。
高齢者にとって100円は決して小さな金額ではない。
だからこそ毎週欠かさず利用する。
結果は紙で受け取ることができる。
スマートフォンがなくても問題はない。
ネットが苦手でも利用できる。
そんな仕組みが当たり前になっていた。
その週、近所のドラッグストアへ立ち寄る。
健康相談コーナーで薬剤師に声をかけた。
「最近、歩く距離が減っているみたいなんですよ」
薬剤師は健康データの推移を見ながら話した。
「無理のない範囲で続けましょう」
「水分補給も意識してくださいね」
それだけだった。
しかし、その一言が続けるきっかけになった。
数か月後。
健康定期便が届いた。
そこには、過去5年間の変化が分かりやすくまとめられていた。
体重。
血圧。
歩数。
健康診断結果。
通院履歴。
毎日では気付かない変化も、5年単位で見るとはっきり分かる。
佐々木さんは少し誇らしい気持ちになった。
70代に入ってからも、大きく数値は悪化していなかったからだ。
午前の散歩の途中。
佐々木さんは近所のドラッグストアへ立ち寄った。
最近はドラッグストアにも少しずつイートインスペースが増えてきた。
散歩途中の休憩場所として利用する人も多い。
夏は冷房が効いている。
冬は暖かい。
高齢者にとっては、ちょっと腰を下ろせるだけでもありがたい。
佐々木さんは店で買った牛乳とパンを持って席へ向かった。
そこには顔見知りの人たちもいる。
「おはようございます」
そんな挨拶から会話が始まる。
最近の天気の話。
家庭菜園の話。
孫の話。
旅行の話。
そして少しだけ健康の話。
誰かが歩数が増えたと言う。
誰かが血圧が下がったと言う。
そんな何気ない会話が楽しい。
健康とは病気にならないことだけではない。
人と会い、笑い、外へ出ることもまた健康なのである。
夕方。
妻と公園を散歩する。
孫が遊びに来る日もある。
旅行へ出かけることもある。
家庭菜園も続けている。
特別なことは何もない。
ただ元気に暮らせている。
病気になってから治療することも大切だ。
しかし、それと同じくらい大切なのは、元気な時間を長く保つことである。
健康寿命を延ばすとは、長生きすることだけではない。
自分の足で歩くこと。
家族と出かけること。
趣味を続けること。
自分らしく暮らし続けることである。
そんな未来が、少しずつ当たり前になっていた。