財源
少子化対策の財源を検証する。
乳幼児加算とこども学資積立の実施には、定常化した段階で年額約1.9兆円が必要です。その多くは増税や新しい財源創出に頼らず、既存予算の組み替えや制度の見直しでまかなえます。ここでは、必要な予算の規模と、その捻出方法を項目ごとに検証します。
必要な予算の目安
乳幼児加算とこども学資積立を合わせた必要予算は、年額約1.9兆円です(乳幼児加算 約0.8兆円+こども学資積立 約1.1兆円)。こども学資積立は、すでに生まれている18歳以下の第2子以降も積み立ての対象に含めるため、対象人数は制度開始の初年度からほぼ出そろい、この規模は初年度から大きく変わりません。
※ すでに18歳以下の子どもは、制度開始時点の年齢から18歳になるまでの残り年数分を積み立てる想定です(例:制度開始時に10歳であれば、残り8年分を積み立て)。約1.1兆円は、0〜17歳の第2子以降の人数をもとにした概算です。
予算の捻出方法
1.9兆円という金額だけを見ると大きく感じますが、増税や新しい財源創出に頼らなくても、既存予算の組み替えと制度の見直しでその大部分をまかなえます。
こども家庭庁内で予算を調整し、新規予算を抑える
基本方針は、新しい税や新しい枠組みを作ることではなく、①すでにある予算の使い道を組み替える、②配ったお金が消費税として自然に戻ってくる分を織り込む、という2つの考え方で、新たに確保すべき額を圧縮することです。そのひとつが、こども家庭庁が所管する児童手当への所得制限の復活です。2024年9月まで実際に運用されていた基準(世帯年収960万円以上1,200万円未満は特例給付、1,200万円以上は支給なし)で復活させると、財源に充てられる額は概算で約0.09兆円です。対象となる世帯は現時点では限られますが、賃上げが進むほど今後は対象が増えていく見込みです。これは、必要なところに必要な分だけ配分するという、税金の使い方を見直す調整です。法改正は不要で運用の見直しのみで実行できますが、2024年に一律給付に変わったばかりであり、他の項目と比べて政治的な調整のハードルは高くなります。
他省庁の予算をこども家庭庁に付け替える
文部科学省が所管する既存の給付型奨学金は、現行水準のままこども家庭庁に付け替えると約0.15兆円を確保できます。この効果は、こども学資積立が満額積み上がる17年後にかけて、新たに学資積立を利用する学生の分だけ既存奨学金の必要額が下がる形でさらに伸び、最大で243万円×新規奨学金利用者数に達する見込みです。私立高校への上乗せ支援を公立と同額まで見直すと約0.33兆円を確保できます。国土交通省・総務省が関わる訪日外国人への課税強化(宿泊税の全国義務化・出国税の引き上げ)を実施し、その税収をこども家庭庁に回すことができれば、現行制度からの増額分だけで約0.30兆円を見込めます。この3項目の合計は約0.78兆円です。
現在の予算の中から捻出できる項目一覧
| 項目 | 所管 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 消費税としての還流 | 財務省・こども家庭庁 | 約0.12兆円 | 給付した分の一部が自然に戻る(定常化時) |
| 既存奨学金の付け替え | 文部科学省 | 約0.15兆円 | 既存の給付水準を変えず、所管をこども家庭庁に移す |
| 私立高校上乗せ支援の見直し | 文部科学省 | 約0.33兆円 | 私立高校への上乗せ支援を公立と同水準まで引き下げる |
| 訪日外国人への課税強化 | 国土交通省・総務省 | 約0.30兆円 | 現行制度からの増額分のみ |
| 児童手当の所得制限復活 | こども家庭庁 | 約0.09兆円 | 庁内の運用見直しのみで実行可。政治的な調整のハードルは高い |
上4項目(所得制限復活を除く)の合計は約0.90兆円です。所得制限復活を加えると、合計は約0.99兆円になります。
新規財源の目安
1.9兆円 − 0.99兆円(②の5項目の合計)= 約0.91兆円
これは、②で挙げた5つの項目をすべて実現できた場合の試算です。実現の度合いによっては、新たに確保すべき額はこれより大きくなります。
こども学資積立はすでに生まれている子どもも対象に含めるため、この新規財源の必要性は段階的に増えるのではなく、制度開始の初年度からほぼそのままの規模で生じます。
【詳細資料】財源の内訳をひとつずつ検証する
前項で示した約0.90兆円と約0.09兆円の内訳を、項目ごとに説明します。
1.配ったお金は、消費税として一部戻ってくる
乳幼児加算(0.8兆円)の8割、こども学資積立(1.1兆円)によって家庭に残るお金のうち5割が消費に回ると仮定すると、その10%は消費税として国に還流します。0.8兆円×80%×10%+1.1兆円×50%×10%で、約0.12兆円です。
2.既存の給付型奨学金を、こども家庭庁に付け替える
返還不要の給付型奨学金(JASSO・文部科学省所管)は、2024年度実績で35万人へ1,500億円が支給されています。現行水準のまま、こども家庭庁の管轄に組み替えることで約0.15兆円を確保します。こども学資積立が満額積み上がるのは制度開始から17年後で、その頃には新たに学資積立で進学費用をまかなえる学生が増え、既存の給付型奨学金の必要額はさらに下がっていきます。この効果は最大で243万円×新規奨学金利用者数に達する見込みですが、対象人数がまだ確定していないため、現時点の合計には含めていません。
3.私立高校の上乗せ支援を公立と同額にそろえる
公立高校の年間授業料は11万8,800円。私立高校向けの支援上限額は45万7,200円まで引き上げられており、差額は年間約34万円、3年間では約100万円に達します。日本の高校進学率はもともと99%前後で、公費投入がなくても家計でやりくりが成立していました。私立高校は、その中で手厚い学習環境を求める家庭が自ら選ぶ「贅沢品」であり、同時に公立の受け皿からこぼれた生徒を拾い上げるセーフティネットでもありました。この前提を崩し、私立の授業料を公立以上に手厚く補填する現行制度は、教育の質の優劣とは関係のない、制度設計上の歪みです。
この差額の使い道をめぐっては、専門家の間でも慎重な見方が強くあります。日本経済新聞と日本経済研究センターの調査では、経済学者の7割が私立高校向け無償化の拡大に反対しました。一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は「教職員の処遇改善、教育のデジタル化などに予算を充てるのが優先」と述べ、同大学の森口千晶教授(比較経済史)も「幼児教育や義務教育に関する支援の方が優先度が高い」と指摘しています。実際、無償化を先行させた大阪では、公立離れがすでに数字として表れています。2026年3月の府立高校入試では平均倍率1.05倍にとどまり、府立高校の約4割が定員割れとなりました。2024年度の入試でも全日制145校中70校が定員割れとなり、旧制中学を前身とする伝統校も定員を満たせませんでした。
私立高校生は全国に約100万人おり、1学年(約33万人)が3年間の在学中に受け取る上乗せ差額の総額は約33万人×100万円=約3,300億円です。教育の質の優劣を理由に上乗せを正当化する根拠はなく、この差額は公立と同額まで解消し、約0.33兆円を確保します。
※ 私立高校生徒数・進学率は文部科学省「学校基本調査」(令和6年度)をもとに試算。大阪府のデータは2024・2026年度の府立高校入試結果に基づく。詳しくはこちらのコラムで解説しています。
4.児童手当の所得制限を、実際の制度に基づいて復活させる
2024年9月まで、児童手当には所得制限がありました。世帯年収960万円以上1,200万円未満は特例給付として月5,000円、1,200万円以上は支給なしという2段階の制度です。この実際の制度に基づいて所得制限を復活させると、財源としての効果は概算で約0.09兆円です。2022年10月に1,200万円以上の支給を廃止した際の報道では、対象児童は全国で約61万人(当時の対象児童の4%)、削減効果は年間約370億円とされています。960万〜1,200万円で特例給付に切り替わる層についても同程度の対象人数と仮定し、平均給付額から月5,000円まで下がる分を概算すると、合計で約0.09兆円になります。対象となる世帯は現時点では限られますが、賃上げが進むほど今後対象は増えていく見込みです。この項目は、所得制限を復活させる場合にのみ使う財源です。
乳幼児加算も、同じ年収960万円・1,200万円の区切りで、960万円未満は月5万円、960万〜1,200万円未満は月25,000円、1,200万円以上は支給なしとする設計に統一しました。乳幼児加算の必要額(約0.8兆円)は、この区切りを前提とした概算であり、精緻な所得分布データに基づく試算ではありません。
※ 960万〜1,200万円の対象人数は公式統計が確認できなかったため、1,200万円以上の対象人数(報道ベース、約61万人)と同程度と仮定した概算です。以前このページで使っていた「700万円・950万円」という区切りは実際の制度とは異なる仮の設定だったため、実際の制度の区切り(960万円・1,200万円)に置き換えました。
5.訪日外国人にも、応分の負担を求める
訪日外国人が快適に利用している宿泊・交通・観光地といったサービスは、これを支える現役世代があってこそ成り立っています。人口減少が進めば、こうしたサービスの担い手も先細っていきます。日本のサービスと文化をこれからも維持していくために、その基盤を支える少子化対策にも、訪日外国人に応分の負担を求めます。宿泊税を全国の宿泊施設に義務化(宿泊料金2万円以下は500円/泊、2万円超は1,000円/泊)し、出国税を1,000円から2,000円に引き上げます。この課税強化を実施し、現行制度からの増額分だけをこども家庭庁の財源に回すことができれば、2週間滞在(14泊)を仮定した1人あたりの増額分(新制度での負担9,000円と、現行の負担(出国税1,000円+一部自治体の宿泊税、平均概算2,000円程度)との差額、約7,000円)に、2025年の訪日外国人数(4,268万人)を掛けて約0.30兆円になります。
※ 現行の出国税と、一部自治体が独自に課している宿泊税は、既存の用途(観光振興・地方財源等)に引き続き充てられます。増額分のみを少子化対策の財源とする前提での概算です。
6.消費税は、すでに少子化対策の財源として法律で定められている
消費税は法律上、全額を「社会保障四経費」(年金・医療・介護・少子化対策)に充てることが義務付けられています。少子化対策は年金・医療・介護と並ぶ、法律上対等な使途区分です。要求する1.9兆円は、この少子化対策費(約3.5兆円)を大幅に積み増すものと位置づけられ、新しい税でも新しい枠組みでもありません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 消費税収(令和6年度決算、国分) | 約25.0兆円 |
| 社会保障四経費(令和7年度予算・国と地方の公費計) | 約33.3兆円 |
| うち少子化対策費 | 約3.5兆円 |
※ 四経費の合計(約33.3兆円)はすでに消費税収(約25.0兆円)を上回っており、他の税収も充当されているのが実態です。
項目2で触れたとおり、こども学資積立が満額積み上がる17年後にかけて、既存の給付型奨学金の必要額はさらに下がっていく見込みです。対象人数が確定次第、新たに確保すべき予算(約0.91兆円)をさらに圧縮できる可能性がありますが、現時点では上記の合計には含めず、今後さらに詰める検討課題として位置づけます。