地方の私立大学を、地域の新しいエンジンに。
地方の衰退を防ぐカギは、そこに人が残り、学び、働ける環境をつくることです。
地元の私立大学を地域の新しいエンジンにし、そのあり方を官・企業・学生・住民のアイデアから探る仕組みを提案します。
私立大学は、地域を発展させるエンジンになれる
国立大学を強化し、定員割れの私立大学を地域に必要な形へ再編・公立化するという制度は、すでに国に用意されています。これは、地方に人を残し、学び働ける環境をつくるための土台になり得ます。足りないのは、その大学を何に特化させるかを、住民を含む多方面から探るプロセスです。
全国1,729自治体のうち744が「消滅可能性あり」とされ(日本創成会議、2040年までに若年女性人口が半分以下に減少すると推計される自治体)、見慣れたニュースになりました。高校卒業後、進学・就職で地元を離れる若者の割合は地域によって40%を超え、離れた若者の約7割が三大都市圏、とりわけ関東(52.0%)へ向かいます(総務省「住民基本台帳人口移動報告」)。この流れを変えるには、一度外に出た人材や関心を呼び戻すだけの「伸びしろ」を、地域の中から見つけ出す必要があります。
その伸びしろを一番よく知っているのは、役所であり、地元企業であり、高校であり、大学であり、さらにはそこに長年住み続けて働き、子どもを育てている人たちです。そこで私たちは、大学を地域のエンジンに変えるための新しい会議体「大学再編会議」を設け、これを既存の交付金制度の審査基準に組み込むことを提案します。会議体では、こうした地元の当事者による議論と並行して、世界情勢や有識者の知見も取り入れ、地域だけでは気づきにくい新たな産業の芽を探ります。
これまで、大学の将来は自治体と大学だけで決まってきました。住民が「大学に何を期待するか」を話し合う場に加わり、地元企業が大学を支える当事者として関わり、外に出た若者や関心のある人たちにも大学の変化を伝え続ける。この3つが地元で積み重なってはじめて、私立大学は地域が自分たちで育てるエンジンになります。
国はすでに何を進めているか
大学を地域のエンジンにするための制度は、すでに複数用意されています。
| 時期 | 制度 | 内容・規模 |
|---|---|---|
| 2018年度〜 | 地方大学・地域産業創生交付金 | 大学振興と地域における若者雇用創出を連携させる交付金。令和7年度分も採択事業を公表済みで継続実施中 |
| 2023年度〜 | J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業) | 2024年度までに国立10・公立1・私立2校を含む25件を採択。1件あたり5年間で最大約55億円を支援 |
| 2020年 | 地域連携プラットフォーム構築ガイドライン(文部科学省) | 国公私立大学・自治体・産業界が「一体となった恒常的な議論の場」を各地域に置く方針を提示 |
| 2025年3月 | 国立大学協会「わが国の将来を担う国立大学の新たな将来像」 | 少子化を前提とした国立大学の大改革方針 |
| 2025年11月 | 国立大学法人等改革基本方針(文部科学省) | 第5期中期目標期間に向けた改革方針を策定 |
| 2009年〜2023年 | 私立大学の公立化 | 高知工科大学を皮切りに12校が公立化を完了。19自治体・約1,631億円規模 |
出典:内閣官房、文部科学省、日本学術振興会、国立大学協会、報道等に基づく。
【付録】実現の具体策
1.地域の人たちのアイデアを集め、伸びる種を探す場をつくる
公立化や学部再編を検討する段階で、自治体・大学だけに委ねず、県民(住民)・地元企業・高校・大学が対等な立場で参加する「大学再編会議(仮称)」を設置します。単なる意見聴取のパブリックコメントではなく、人口動態や主要産業、若者流出のデータを住民に開示したうえで、「何を伸ばせば地域が大きくなるか」をワークショップ形式で総ざらいします。これと並行して、世界情勢の動向や有識者による知見も取り入れ、住民だけでは気づきにくい新しい産業の可能性を探り、その結果を大学・自治体の意思決定に反映させる仕組みとします。
2.既存の交付金の審査基準に、この仕組みを組み込む
地方大学・地域産業創生交付金など、国の交付金の採択要件に、この住民参加プロセスを経たかどうかを加点評価項目として組み込むよう提言します。新しい制度をゼロから作るのではなく、すでにある交付金の審査基準に手を入れることで、追加の予算措置なしに実現を図ります。
3.体力のある地元企業に、大学というエンジンへの投資を求める
校舎建て替えなど自治体の単独負担になりがちな費用については、その地域に本社や主要拠点を置く企業のうち、黒字で内部留保のある企業に、地元大学への寄付講座の開設や共同研究費の拠出、公立化・再編費用の一部負担を求めます。拠出した企業には、共同研究の優先権や地域の人材採用における連携など、企業側にも実利のある関係を築きます。地方創生を国の交付金だけに頼らず、「地方で稼いだお金を、地方の伸びしろに還す」循環をつくることが、山陽小野田市の事例のような住民負担の急増を防ぐ一つの手立てになると考えます。
住民が方向性を決め、既存の交付金の審査基準にそれを組み込み、地元企業が資金の一部を担う——この3つが揃ってはじめて、私立大学は地域が主体的に育てる「地域のエンジン」になります。新しい予算をゼロから積み増すのではなく、すでにある制度と地域の当事者を組み合わせることが、最も早く実現に近づく道です。