ドラッグストアを、街の「健康コンビニ」に。

医療費の増加を抑えるカギは、病院の前に並ぶ薬局よりも、身近なドラッグストアにあります。私たちは、店舗単位の認定制度と、補助金ではなく減税による後押しで、これを「健康コンビニ」として最速で実現する方法を提案します。

現状:調剤薬局とドラッグストアの棲み分け

日本の薬の売り場は、大きく2種類に分かれています。一つは、処方箋をもとに薬を渡す「調剤薬局」です。薬剤師の常駐が法律で義務づけられていますが、店の主な役割は処方薬の受け渡しで、店頭に並ぶ市販薬(OTC医薬品)や健康食品の品揃えは、多くの場合おまけ程度にとどまります。

もう一つは、市販薬や健康食品、日用品を幅広く扱う「ドラッグストア」です。店舗数はコンビニに匹敵するかそれ以上とも言われ、日常の生活動線に自然に入り込んでいます。ただし、市販薬のうち第2類・第3類(一般用医薬品全体の9割以上を占める)は、薬剤師でなくても「登録販売者」という資格があれば販売できるため、薬剤師を置かずに登録販売者だけで営業する店舗が年々増えています。第1類医薬品の販売や、症状を見極めたうえでの本格的な健康相談、複数の薬の飲み合わせチェックなどは薬剤師でなければできませんが、多くのドラッグストアではその機能が手薄なままです。

つまり、薬剤師が必ずいる調剤薬局は処方薬を受け取りに行く場所であり、「買い物ついでに立ち寄って相談する」場になりにくく、身近で数の多いドラッグストアは、その分だけ薬剤師による本格的な健康相談機能を欠きやすい。この棲み分けそのものが、「気軽に、専門的に、健康相談ができる場所」を空白地帯にしています。

背景には、店舗の規模の違いもあります。調剤薬局の多くは小規模な店舗で、OTC医薬品や健康食品を置くスペースが限られ、座ってじっくり相談できるカウンターを設ける余裕もあまりありません。ドラッグストアは日常的に立ち寄る店ではあるものの、調剤機能を備えた店舗はまだ限られています。薬剤師が常駐する店舗であれば、夜間や土日にも相談に対応でき、店舗の規模を生かして相談カウンターを設置することもできます。

この境界はすでに崩れ始めています。大手ドラッグストアの中には、店舗内に調剤薬局を併設し、処方薬の受け渡しから市販薬・健康相談までを一体で行う店舗が急速に増えています。ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスは、2022年度時点で調剤併設店舗が2,019店に達し、調剤薬局専業最大手のアインホールディングス(1,209店舗)をすでに上回りました。ツルハホールディングスも、調剤併設店舗を615店から1,170店へ倍増させる計画を進めています。私たちは、この「調剤薬局を併設したドラッグストア」を増やしていく方向性こそ、棲み分けの空白を最短で埋めるルートだと考えています。

※ 一般用医薬品(OTC医薬品)は第1類・第2類・第3類に分かれ、第2類・第3類は登録販売者が販売可能。第1類医薬品の販売と、処方箋に基づく調剤は薬剤師のみが行えます。調剤併設店舗数はウエルシアホールディングス・ツルハホールディングスの公表資料等に基づく2022年度時点の数値です。

国と業界の取り組み

身近な場所で健康相談ができる仕組みづくり自体は、経済産業省・厚生労働省・業界団体が一貫して掲げてきたテーマです。ただし、その受け皿として想定されてきたのは、ドラッグストアではなく「調剤薬局」でした。

時期主体内容
2014年〜経済産業省「セルフメディケーション推進に向けたドラッグストアのあり方に関する研究会」が、相談しやすい環境整備・医療機関との連携など10項目を提言
2015年厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」を策定。「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へという方向性を提示
2016年〜厚生労働省「健康サポート薬局」制度を創設(届出制、地域住民の主体的な健康維持・増進を支援)
2019年〜厚生労働省「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」で、健診・診療・自己測定データを本人が一元管理できる仕組みを検討
2025年厚生労働省薬機法改正により、健康サポート薬局を「健康増進支援薬局」として都道府県知事の認定制に格上げする見直しを実施
2026年度日本チェーンドラッグストア協会基本テーマに「健康生活拠点としてWell-Beingに貢献」を掲げ、かかりつけ機能の充実を重点施策化

出典:経済産業省「セルフメディケーション推進に向けたドラッグストアのあり方に関する研究会」、厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」、日本チェーンドラッグストア協会等。

本当の目的=医療費の抑制を考える

「ドラッグストアでの健康相談を広げれば、医療費が抑えられる」——この提案の出発点には、そうした期待があります。ここで一度、その前提を確かめておきます。

国民医療費は1990年度の約20.6兆円から2022年度には46.7兆円まで増加し、2035年度には約60兆円、2040年度には約67兆円規模まで拡大すると見込まれています(厚生労働省「国民医療費の概況」「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」)。高齢化率の上昇と歩調を合わせて、医療費は膨らみ続けています。

国民医療費の推移と将来予測

健康相談へのアクセスが増えれば、軽い症状のうちに自己対処(セルフメディケーション)で済ませられる人が増え、不要不急の受診が減る、あるいは症状を早めに見極めて受診につなげることで、重症化してからの高額な治療を避けられる、さらに病院がすでに閉まっている休日や夜間にも専門家に相談できる、という経路が考えられます。ただし、この効果がどの程度、国民医療費全体を押し下げるかは、精緻に検証されているわけではありません。

日本の医療費の問題は、医者にかかろうとしている人が、AIに相談する、あるいは相談できるドラッグストアに出向いて必要な薬をタイムリーに購入することで早期に対応し、受診を控え、重症化を防ぐ——その積み重ねによって解決に向かいます。だからこそ、日常的に気軽に専門家に相談でき、それが生活の一部となるような「健康コンビニ」と呼べる仕組みが必要になります。

「健康コンビニ」という考えかた

私たちは、「健康コンビニ」「健康DX」「室内空気環境」の3つを、地域が備えるべき「健康インフラ」の柱として位置づけています。ここでは、その中心となる健康コンビニの仕組みを説明します。

「健康コンビニ」とは、薬局免許を前提にしない、新しい認定の枠組みです。年中無休で、毎日夜10時まで薬剤師が常駐し、いつでも体調相談に対応できるドラッグストア店舗を、国と都道府県が共同で認定します。対象になるための条件は「薬局」であることではなく、「薬剤師が年中無休・夜間まで常駐していること」です。

この営業時間を条件にするのは、「コンビニ」を名乗る以上、それに見合う効果を生まなければならないからです。年中無休・夜10時までの相談体制があってはじめて、軽症での救急外来の利用を減らし、夜間に症状を我慢して悪化させることを防ぎ、日常的な相談を通じて病気そのものを予防する、という3つの効果が期待できます。この水準に届かなければ、健康コンビニとは呼べません。

認定を受けた店舗には、国・都道府県共同のロゴ・ステッカーを交付し、店頭に掲示することで、外観だけで「ここは健康相談ができる店」と分かるようにします。

既存の「健康サポート薬局」は、薬機法上「薬局」、つまり調剤機能を持つ店舗にしか認定されないため、対象になれるのは一部の店舗に限られてきました。健康コンビニは、この対象範囲の狭さを解消し、生活に根付いたドラッグストアそのものを健康相談の拠点に変えることを狙いとしています。

ドラッグストアが健康コンビニになるメリット

利用者サイドのメリット

  • 処方箋がなくても、身近な店舗で気軽に健康相談ができる
  • 年中無休で夜10時まで対応しているため、平日日中に薬局へ行けない人でも利用しやすい
  • 症状に応じて、医療機関を受診すべきかどうかの判断を専門家に相談できる

運営サイドのメリット

  • 「ここは健康相談ができる店」という認定表示が、他店との差別化・集客につながる
  • 市販薬・健康食品の売上増加が期待できる
  • 薬剤師にとって、専門性を発揮しキャリアを高める機会が増える

実現への道

最も早く実現に近づく道は、地域のドラッグストアと、供給過剰気味の調剤薬局を合併させ、一つの店舗に集約していくことです。この動きは、すでに大手チェーンで先行しています。ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスは、2022年度時点で調剤併設店舗2,019店を展開し、調剤専業最大手のアインホールディングス(1,209店舗)をすでに上回っています。ツルハホールディングスも、調剤併設店舗を615店から1,170店へ倍増させる計画を進めています。

この流れを後押しする根拠は、調剤薬局が置かれている供給過剰の実態にもあります。全国の調剤薬局数は約6万店で、コンビニエンスストアの店舗数を上回ります。都心部でも、病院・診療所の前に薬局が並ぶ「門前薬局」が乱立し、供給過剰が指摘されて久しい状況です。それでも多くの薬局の経営が成り立っているのは、調剤医療費という公的保険からの収入が安定して入ってくるためです。調剤医療費は年間7.7兆円で、国民医療費42.2兆円の2割近くを占め、そのうち薬剤師の技術料だけで年1.9兆円にのぼります。市販薬市場全体(約1.1兆円)の7倍にあたる規模の公的資金が、処方箋の受け渡しという業務に投じられている計算です。

つまり、薬局の数を減らして集約しても、調剤報酬という収益の土台は失われません。むしろ、経営体力のあるドラッグストアが、供給過剰で経営基盤の弱い調剤薬局を合併・吸収していくことで、次の課題が同時に解決していきます。

  • 「健康サポート薬局」の認知度の低さ(日本薬剤師会の2018年調査では91.6%が「知らない」と回答)は、すでに生活に根付いたドラッグストアという業態に統合されることで解消に向かいます
  • 健康サポート薬局が「薬局」にしか認定されない制度上の壁も、合併によって調剤機能を備えた店舗になれば、対象から外れる理由がなくなります
  • 認定を取得しても金銭的メリットが乏しいという課題も、調剤報酬による安定収入がそのまま店舗の収益基盤に組み込まれることで、実質的に解消されます

残るのは、経済産業省(産業振興)と厚生労働省(薬事制度)とで所管が分かれている点です。ここは、両省がドラッグストアと調剤薬局の合併・統合を後押しする施策を共同で設計することが、最も確実な解決策です。

※ 調剤併設店舗数はウエルシアホールディングス・ツルハホールディングスの公表資料等に基づく2022年度時点の数値。調剤薬局数・調剤医療費・技術料・市販薬市場規模は各種業界統計、厚生労働省「国民医療費の概況」等に基づく概算値です。

合併・統合にかかる改装費用は、体力のある大手チェーンが自己負担で十分に賄える規模です。ただし、薬剤師2〜3名の交代制で、年中無休・夜10時までの相談対応を維持する運用コストについては、現状、直接的な金銭インセンティブが用意されていません。

【付録】ミラボ独自の提言①:健康DX

「健康ネット」「健康定期便」に相当するPHR(Personal Health Record=健診・診療・服薬などの個人の健康情報を本人が一元的に管理する仕組み)基盤づくりは、厚生労働省のPHR推進検討会やマイナポータルの健診結果閲覧機能としてすでに国レベルで進行しています。私たちが提案する「健康ネット」は、日本年金機構の「ねんきんネット」の健康版にあたる仕組みです。マイナ保険証は、紙の保険証廃止という移行の強制力と連動して、2025年6月の30.6%から2025年12月には47.7%、2026年に入り60%超まで急速に利用率が伸びました。任意参加の制度は浸透しにくく、移行を制度的に促す施策は急速に浸透するという対照は、健康ネットの設計にもそのまま参考になります。健康サポート薬局と同じ「希望者だけが登録する」仕組みのままでは、同じように広がらないリスクがあるため、AIが健康状態の変化を分析して能動的に知らせる「健康定期便」と、年金機構型の専属運営主体「健康機構」の新設によって、加入のハードルを下げることを提案します。

【付録】ミラボ独自の提言②:室内空気環境の改善

学校・職場・介護施設などの室内空気環境を、道路や水道と並ぶ社会インフラとして位置づける。既存の制度・提言には同じ発想が見当たらない、みラボ独自の提案です。

学校の換気基準やCO2濃度基準、空調設備の整備は、文部科学省の「学校環境衛生基準」としてすでに存在します。コロナ禍を機に換気設備の調査や補助も行われてきました。しかし、これらはあくまで感染症対策としての個別の施設基準にとどまり、学校・保育園・職場・介護施設・商業施設・イベント会場といった人が集まる室内空間の空気環境を、社会全体で横断的に整備すべきインフラとして扱う視点は、これまでの制度には見当たりません。

私たちは毎日の大半を室内で過ごします。感染症の多くは、人が集まる室内空間で広がります。換気・空調設備の最適化・空気清浄技術の活用を組み合わせることで、病気が広がりにくい空間をつくることができます。学級閉鎖や体調不良による欠勤、高齢者施設での集団感染や重症化のリスクを減らすことは、治療にかかる医療費そのものを抑える効果も見込めます。

私たちは、この室内空気環境の整備を、健康コンビニ・健康DXと並ぶ「健康インフラ」の第3の柱として位置づけます。既存の学校環境衛生基準を土台にしながら、対象を学校だけでなく職場・介護施設・商業施設にも広げ、道路や水道と同じように国・自治体が計画的に投資対象とする社会インフラへと引き上げていくことを提案します。